小説の練習 | やめさせ部屋

1日目

「こんな会社ではなかったはずだ」

 

彼はそうつぶやいた。

それが心の中の声だったのか、音に出した言葉だったのかは定かではない。

 

通称「やめさせ部屋」で過ごし始めてから、もう4時間が経過している。

そう分かったのは、昼休みを告げるアラートが鳴り響いたからだった。

 

この4時間は人生で一番長い時間のように感じられた。

 

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最近、人事部の編成が変わったということは聞いていたが、この優良上場企業で、まさかこんなことが許されようとは。

 

ところで「通称やめさせ部屋」と書いたが、それは、彼がこの4時間で、様々な物語と共に頭の中で作り上げた呼び名で、実は通称も何もあったものではない。

 

おそらく彼がこの部屋に入れられる第一号なのではないだろうか。

他の社員たちにも、彼がこの部屋で何をしているのかは通達されていないはずだ。

 

だがそれも時間の問題だと思う。

なにしろ、つい先月末までチームの指揮を取っていた彼が、突如としてひとつの部屋にこもり、謎の業務を行うことになるのだから。

 

もちろん、業務内容なんてものは存在しない。

彼の仕事はただ、1日8時間その部屋にいること、それのみだ。

 

そういえば昔「化粧品の製造過程を見守り続けるだけ」というテレビCMがあったのを思い出した。

だが彼が見守るべきものは何もなく、ただその部屋にはただ空白が存在するだけだ。